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京都地方裁判所 昭和61年(わ)107号 判決

本籍

京都市伏見区桃山町下野三〇番地の一

住居

右同所

司法書士

大西勝則

昭和一〇年一二月二二日生

右の者に対する相続税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官西村正男出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役一年四月及び罰金七〇〇万円に処する。

未決勾留日数中六〇日を右懲役刑に算入する。

右罰金を完納することができないときは、金一万円を一日に換算した期間、被告人を労役場に留置する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、司法書士であるが、

第一  京都市伏見区居住していた松井宏次の実父松井利一が昭和五九年九月四日死亡したことにより右松井宏次において同人の相続財産にかかる相続税については納税義務者として、同人の実妹友田史江、同小泉敏恵、右松井宏次の長男で右松井利一と養子縁組をした長男松井宏一郎、同二男松井啓二郎及び同三男松井利治の各相続財産にかかる相続税については各納税義務者の代理人として相続税の申告をするに当り、右松井宏次、全国同和対策促進協議会京都府連合会本部会長笠原正継及び同連合会本部事務局長黒宮功らと共謀の上、相続税を免れ若しくは免れさせようと企て、右松井宏次の実際の相続財産の課税価格が三億五、四八一万七、一九七円で、これに対する相続税額は一億九、三八三万二、五〇〇円であり、右友田史江の実際の相続財産の課税価格が一億一、三六九万九、六六四円で、これに対する相続税額は六、一六二万九、〇〇〇円であり、右小泉敏恵の実際の相続財産の課税価格が一億、一、三六九万九、六六四円で、これに対する相続税額は六一六二万九、〇〇〇円であり、右長男松井宏一郎の実際の相続財産の課税価格が三億二、四三七万一、六七八円で、これに対する相続税額は一億七、六七八万四、二〇〇円であり、右二男松井啓二郎の実際の相続財産の課税価格が二億八、八九六万九、三二〇円で、これに対する相続税額は一億五、七八三万七、九〇〇円であり、右三男松井利治の実際の相続財産の課税価格が二億八、一六四万三二一円で、これに対する相続税額は一億五、三八〇万一、八〇〇円であるにもかかわらず、被相続人の右松井利一が全国同和対策促進協議会京都府連合会本部(会長笠原正継)から一一億三、二〇〇万円の債務を負担しており、右松井宏次においてそのうち三億二〇〇万円を、右友田史江においてそのうち五、五〇〇万円を、右小泉敏恵においてそのうち五、五〇〇万円を、右長男松井宏一郎においてそのうち二億六、六〇〇万円を、右二男松井啓二郎においてそのうち二億三、〇〇〇万円を、右三男松井利治においてそのうち二億二、四〇〇万円をそれぞれ承継したと仮装するなどした上、同年一一月一〇日、京都市伏見区鑓屋町所在所轄伏見税務署において、同署長に対し、右松井宏次の相続財産の課税価格が六、〇三〇万四、四三一円で、これに対する相続税額は二、四九七万七、六〇〇円であり、右友田史江の相続財産の課税価格が五、八六九万九、六六四円で、これに対する相続税額は二、四三九万八〇〇円であり、右小泉敏恵の相続財産の課税価格が五、八六九万九、六六四円で、これに対する相続税額は二、四三九万八〇〇円であり、右長男松井宏一郎の相続財産の課税価格が六、一五五万四、四九八円で、これに対する相続税額は二、五七〇万九、二〇〇円であり、右二男松井啓二郎の相続財産の課税価格が六、二一五万二、一三九円で、これに対する相続税額は二、五六四万九、二〇〇万であり、右三男松井利治の相続財産の課税価格が六、〇八二万三、一四〇円で、これに対する相続税額は二、五〇〇万一、五〇〇円である旨の内容虚偽の相続税の申告書を提出し、もって不正の行為により右松宏次の右相続にかかる正規の相続税額一億九、三八三万二、五〇〇円との差額六、八八五万四、九〇〇円を免れ、かつ右友田史江をして右相続にかかる正規の相続税額六、一六二万九、〇〇〇円との差額三、七二三万八、二〇〇円を、右小泉敏恵をして右相続にかかる正規の相続税額六、一六二万九、〇〇〇円との差額三、七二三万八、二〇〇円を、右長男松井宏一郎をして右相続にかかる正規の相続税額一億七、六七八万四、二〇〇円との差額一億五、一〇七万五、〇〇〇円を、右二男松井啓二郎をして右相続にかかる正規の相続税額一億五、七八三万七、九〇〇円との差額一億三、二一八万八、七〇〇円を、右三男松井利治をして右相続にかかる正規の相続税額一億五、三八〇万一、八〇〇円との差額一億二、八八〇万三〇〇円をそれぞれ免れさせた

第二  全国同和対策促進協議会京都府連合会本部会長笠原正継及び星野治郎らと共謀の上、右星野治郎の実父の星野孟が昭和六〇年四月一一日死亡したことに基づく右星野治郎の相続財産にかかる相続税を免れようと企て、右星野治郎の実際の相続財産の課税価格が四億六、五〇五万五、二九二円で、これに対する相続税額は一億四、七二四万九、五〇〇円であるにもかかわらず、被相続人の右星野孟が右全国同和対策促進協議会京都府連合会本部に対し七億円の債務を負担しており、右星野治郎においてそのうち三億六、三〇〇万円を承継したと仮装するなどした上、同年一〇月二二日、京都市伏見区鑓屋町所在所轄伏見税務署において、同署長に対し、右星野治郎の相続財産の課税価格が一億二、九四七万七、二八二円で、これに対する相続税額は四、七〇六万八、三〇〇円である旨の内容虚偽の相続税の申告書を提出し、もって不正の行為により右星野治郎の右相続にかかる正規の相続税額二億四、七二四万九、五〇〇円との差額二億一八万一、二〇〇円を免れた

ものである。

(証拠の標目)

判示全事実につき

一  被告人の当公判廷における供述

判示第一事実につき

一  被告人の検察官(検三三ないし三五号)に対する供述調書

一  大蔵事務官作成の証明書(検一号)及び脱税額計算書(検二号)謄本

一  伏見区長作成の戸籍謄本(検四号)

一  安東謙、松井宏次、友田史江、小泉敏恵、松井マサ、松井啓子、藤本昇、稲石文男(検二二、二三号)、大西弘一、笠原こと笠原正継(検二五、二六号)、黒宮功の各検察官に対する供述調書謄本

判示第二事実につき

一  被告人の検察官(検五五ないし五七号)に対する供述調書

一  大蔵事務官作成の証明書謄本(検三六号)

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書謄本(検三七号)

一  伏見区長作成の戸籍謄本

一  星野治郎、大濱宏子、原田廸世、星野種司、笠原正継(検五〇、五一号)、中田久弘、稲石文男(検五三号)、上田宣男の各検察官に対する供述調書謄本

(法令の適用)

判示事実

第一は 刑法六五条一項、六〇条、相続税法六八条一項(松井宏次以外の分(包括一罪)につき相続税法七一条一項も適用)

右は観念的競合につき刑法五四条一項前段一〇条により、松井宏次分に対するほ脱罪の刑にしたがう

第二は 刑法六五条一項、六〇条、相続税法六八条一項

罰金の併科 以上いずれも罰金刑を併科する。

併合加重 懲役刑につき刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(犯情重い判示第一の罪の刑に加重)罰金刑につき刑法四八条二項

労役場留置 刑法一八条

未決勾留日数の算入 刑法二一条

(量刑の事情)

本件のほ脱金額をみると、判示第一の松井宏次の相続にかかる分が合計六億五五三九万五三〇〇円、星野治郎の相続分のものが二億一八万一二〇〇円、合計すると八億五五五七万六五〇〇円と多額であるばかりか、そのほ脱率もいずれも八一%を超えるなど高率であり、誠実な納税意欲を阻害すること甚だしく、その社会的影響の重大な脱税事犯であること、その手口は判示のとおり被相続人が多額の債務を負っていたものと仮装するなど悪質であること、しかも被告人は単にその仲介をしたにとどまらず、その具体的な手続に深く関与し、少なくとも被告人が司法書士という立場にあったことからみると、その違法性についても熟知していたものと考えられること、そのうえいずれの犯行についてもその依頼者らを勧誘して仲介し、同人らから必要額以上に水増しした金員を受け取るなどする一方、その謝礼金をも受領し、合計一億三五〇〇万円もの利得をするなどしていること、ことに被告人は日頃司法書士として社会的に信用ある職務をしながら、あえてその立場を利用して本件に及んだことをみると、その責任は強く非難されるべきものといわねばならない。これらの犯情に照らすと、本件に関し税務当局において犯行を是認するような杜撰な取扱のあったことや、被告人においてすでに利得金員を返還し、今後は地道な生活を送りたい旨述べるなど反省の態度を表していること、これまで前科前歴もないこと、その他被告人の仕事や家庭事情等、被告人に斟酌すべき事情を最大限に考慮しても、その責任の重大性にかんがみると、本件は執行猶予に付すべき事案とは認め難く、主文程度の実刑はやむを得ないものと考える。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 西村清治)

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